TSK根幹技術

鉄触媒について

触媒は私たちの暮らしを支える縁の下の力持ち

現代社会を生きる我々にとって、触媒は無くてはならない存在です。「食料の安定供給に必要不可欠な農薬や肥料」、「電子機器に使われる半導体」、「健康を支える医薬品」、「環境に優しい燃料電池や全固体電池」、そして「現代社会の必需品である液晶/有機ELディスプレイ」、これらは触媒を用いた有機合成で生産される原料や中間体を基に製造されています。

持続可能な社会を実現する切り札となる鉄触媒

従来の有機合成化学産業において、触媒にはパラジウム等のレアメタルが用いられてきましたが、環境負荷が高く地政学的なリスクにより価格が高騰しやすいなどの問題があります。特に供給の観点からは、レアメタルの多くは2050年までに「現有埋蔵量」だけでなく「埋蔵量ベース」と呼ばれる“技術的には採掘可能だが経済的理由などで採掘対象とされていない資源の量”までも超過してしまうと予想※1されています。そのため、世界中でレアメタル触媒に代替する持続可能な有機合成反応の研究開発が行われています。

※1)資源枯渇リスク, 国立研究開発法人物質・材料研究機構

一方、鉄は地球に多く存在する金属であり、枯渇リスクが低く非常に安価です。また毒性が低いため医療品の原料や中間体に向いており、環境負荷が限りなく小さいのも特徴です。

鉄触媒による有機合成

有機合成分野においても、供給リスクも環境負荷も低い鉄触媒への期待は高まっています。例えば、従来のディスプレイ材料の合成に用いられてきたパラジウム触媒の代わりに鉄触媒を用いる事で、総収率・合成工程の省略化・触媒自体のコストなどの点から約1/3の費用で合成可能であると試算されています。更に環境対策費用を考えると、有機合成化学産業にとって鉄触媒を使うメリットは計り知れません。まさに、鉄触媒は持続可能な社会を実現するための切り札になるのです。

これまで鉄触媒による有機合成は反応性の制御が困難であるとされてきました。しかし、2004年に東京大学助教授(現・京都大学教授および当社CTO)中村正治により、独自に設計・合成した鉄触媒を用いることで望みの反応性を引き出せることが発見されました。2017年には既存のパラジウム触媒技術では不可能な分子構造の構築に成功し、電子材料および医薬品の合成に重要な反応を開発しました。我々はこの技術を発展させ活用すべく、京都大学発の化学ベンチャーとして2021年7月1日に株式会社TSKを設立しました。